音律という言葉をお聞きになられたことがあるでしょうか?
音律とは、音楽の相対的な音の高さの関係を一定の方法によって整理したもので、西洋音楽の平均律、中国や日本の十二律などがあります。
「平均律」という言葉は、一般に、ピアノは平均律で調律されていますので、お聞きになられたことがあると思います。平均律とは、1オクターヴなどの音程を均等な周波数比で分割した音律です。
J.S.バッハの作品で、平均律クラヴィーア曲集というものがあります。第1巻と第2巻があり、それぞれ24の調の前奏曲とフーガでできています。
ドイツ語では、Das Wohltemperierte Klavier
英語では、The Well-tempered Keyboard となります。
しかし、これは、「良く調整されたクラヴィーア」 という意味で、決して、平均律 Equal temmperament ではありません。
なぜ、「良く調整されたクラーヴィア」と名付けられたのか、少し、音律の歴史を調べてみました。
ギリシアの数学者ピタゴラスが考案した「ピタゴラス音律」は、5度を基準にして作られたため、
3度は純正音律より広いものになっていました。
合唱や弦楽器では、微調節することで各調性を演奏することが可能であったことが、鍵盤楽器であるチェンバロやオルガンの登場で、オクターブを12音に固定する課題がおきました。
そこで、考えられたのが、ミーントーン(中全音律)です。ミーントーンは、限られた調にしか転調はできませんでしたが、調性の性格が明確にできました。
バッハ、パッヘルベル、フレスコバルディなど、ほとんどのバロックの作曲家は、このミーントーンを使っていました。しかし、転調が限られた調にしかできず、それを超えると大変不快な響きがおこりました。
そこで、ヴェルクマイスターやキルンベルガーという数学者により、いくつかの音律が提案されました。バッハは、この新しい音律によって調律されたクラヴィーアで演奏されることを考えて、「良く調整されたクラヴィーア」と名付けたのです。
24の調の調性が際立ち、それぞれの響きが美しいこと、それも楽器1台で表現できることを示したかったのではないかと思います。
ハイドン、モーツアルト、ベートーヴェンなどの古典派の作曲家も、ヴェルクマイスター音律か、キルンベルガー音律を使って作曲していました。
私たちは、平均律で調律されたピアノを当たり前のように弾いています。音律のことは、ほとんど考えないかもしれません。
たまには、その歴史や音律の違いによる響きの違いなどに、思いをはせてみるのもよいのではないでしょうか?